朝、いつも見かける風景。
地下鉄の駅を降りて売店前で手櫛で髪を整えるおばあさん。
正確に言うと、売店のあった場所で手櫛で髪を整える高齢の女性。
高齢とは言え働いているのであろうか。
毎朝同じ車両から降りてきて、足早に改札へと向かう。
歩くのが遅い自分はいつも追い越されてしまう。
高齢のせいか背筋が曲がっていて、たぶん地面を見ながら歩くくらい。
それでも、どこかの目的地に向かって、毎朝両手を振りながら足早に
歩いていく。
何気なく毎朝自分を追い越していくおばあさんを眺めていたが
ある時、一瞬自分の視界から消える事に気が付いた。
別の出口なのかと思ったが、少しするとまた足早に出現する。
これはいったいどういう事だろうと、視界でおばあさんの動きを
追ってみると、コロナ前まで売店があった場所で手櫛で髪を
整えていた。
今まで、売店があったので隠れていたかもしれないが、
売店が無くなった今は丸見えの状態だ。
それでも、そんな事はおかまいなしに、手早く髪を手で
整えている。
もしかしたら数十年そのようにしてきたのかもしれない。
とても自然で大切な出勤前の朝の儀式。
そんな風に見受けられた。
そして数秒のその儀式が終わると、何事もなかったかのように
もといた場所に向かって足早に歩いていき、
近くの出口へと歩み去っていった。
ほんの少し、先ほど見た時よりも背筋がシャンと伸びていた。