会社帰りの電車での話。
自分は座っていてスマホで漫画を読んでいた。
緊急事態宣言が明けたせいか電車の中はだいぶ混雑していた。
座席はすぐに埋まり、自分の横に少し太めのサラリーマンが座った。
扉が閉まるギリギリで若いカップルが乗り込んできた。
ちょうど自分の前に二人分ほどのスペースが開いていたので押し出される
ような形で二人は自分の前に立って話始めた。
電車が動き始め、少しした頃、カーブか何かで電車が急ブレーキをかけた時に
何かが転がる音がした。
ふと床を見ると単一電池が隣のサラリーマンの足元に転がってきた。
サラリーマンは反射的にその電池を拾い、ちょうどカバンをガサガサ
何かを探していたカップルの男性に向かって、
「落としました?」
と聞いた。カップルの男性はただ一言、
「いえ」
とだけ答えた。
何となくその電池をどうするのか気になり、横目でサラリーマンを
見ていると、単一電池をしばらく見つめ、最初は足元に戻そうと
したものの、そっと自分のカバンにしまっていた。
それを見て、ものすごく良い人だな、と思った。
誰のものでもない、その単一電池。
無駄に大きくて、そして重い単一電池。
サラリーマンの彼は、結局どうしたのだろうか。